ミィマーチ
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伝説の魔王、パン屋始めました ―第1話― 

「それでは、今月の魔王集会を始めます」

 涼やかな声が、大きな円卓のある部屋に響いた。

∽∽∽伝説の魔王、パン屋始めました∽∽∽

――第1話【魔王集会】――

「えー、ではまず、先月の魔王活動報告から……」

 月に一度開催される、『伝説』以上の肩書きを持つ魔王たちによる集会。
 開催場所は持ち回り制で、今回は辺境ことアジト跡地にある、パン屋を営む魔王の城で行われている。
 前回の集会後に自分のところで開催されるのが判明してから、城を改装したり、念入りに掃除をしたり、皆に振る舞う新作パンの開発をしたりと、パン屋魔王は一ヶ月を慌ただしく過ごしていた。
 そして本日、満を持して集会が開催された。
 メイン会場となる円卓の間はほんの少し薄暗くして重厚な雰囲気を醸し出しているが、部屋の隅々まで掃除が行き届いており、実はとても清潔感溢れていたりする。
 円卓の傍には皆が自由に飲食できるように、腕によりをかけて拵えた自慢のパンと、各種飲み物が用意されている。
 それらは会議開始前から好評で、早くも第一陣がなくなりかけていた。…各種2sずつ置いていたはずなのだが。

 パン屋魔王は自分の席からぐるりと円卓を見渡す。そうそうたる顔ぶれが並ぶなか、一ヶ所だけ気になるものがある。
 …木が、置いてあるのだ。
 縦に伸びる幹、一本だけ張り出した枝。…止まり木、と言うものだろうか。鳥が羽を休める為の。
 それが何故こんなところに。
 自分が用意したものではない。となると、他のだれかが用意したものか。一体誰が。
 パン屋魔王はその止まり木の存在が気になりすぎて、報告をろくに聞いていなかった。

「次に、新しく『伝説の魔王』の肩書きを得たものが現れましたので、自己紹介をしていただきます」

 議長の言葉の後、廊下に繋がる扉が開き、何者かが円卓の間に入ってくる。

 新参ながらも、『伝説の魔王』という肩書きにふさわしい威厳を、すでにしっかりと持ち合わせているようだ。

 神々しいまでに純白の羽毛に身を包み。

 深紅の冠を頭上に戴き。

 先程からパン屋魔王が気にしていた止まり木に颯爽と飛び乗った――

 にわとりさんが、そこにいた。

「……………………」

 議長を除く参加者すべてが、そのにわとりさんに注目する。
 にわとりさんは黄色い嘴でコンコンと止まり木をつついた後、徐に頭を上げて。

「どうもこんにちは、今回より伝説の魔王の末席に加えていただけることになりました。こけこっこ魔王、とでもお呼びください」

 無駄に渋い声で、そう言った。

(こけこっこ……)
(こけこっこ……)
(その声でその単語はある意味破壊力半端ないな……)
(頼めば鳥の羽根わけてくれるかな……)
(声と鶏冠からして雄鶏か……卵は無理だな)

 なんというか、流石は伊達に『伝説の魔王』を名乗っていない、というか。
 みんな、あまり動揺していなかった。

「……ん?こけこっこ魔王……?」

 ふと、別の場所から声がした。発したのは、パン屋魔王の隣に座っている、通称『牛(うし)魔王』。ミノタウロス♀とミノ乳製品をこよなく愛する、勇者になってもおかしくない行動してるのになんで勇者じゃないんだ、と言いたくなる伝説の魔王様だ。
 因みに『牛(ぎゅう)魔王』と呼んでしまうとミノタウロス♀にもみくちゃにされるという精神攻撃(物理)を行ってくるので注意が必要。
 そんな牛(うし)魔王が、手元においている帳面をパラパラとめくり、牛の頭骨を象った仮面を揺らしながら呟き始める。

「……貴殿はたしか、ガーネット地区で魔王活動を――主に、ゴブリン鼓舞を行っておられましたな?」
「……はい。それがどうかされましたか?」

 牛(うし)魔王の問いかけに答えるこけこっこ魔王。こけ?と首を傾げる様を見て、一部の魔王たちがほっこりしている。

「いえ、私も一時期ガーネット地区に滞在したときに、ゴブリン鼓舞を行っていたのですが……その時に、とあるゴブリンたちが、こうこぼしていたのを聞いてしまいまして」

 牛(うし)魔王はそこで一旦言葉を切り、仮面の下からこけこっこ魔王を見据え、続けた。

「……『いつものにわとりさんが持ってきてくれるピッザより、コーンマシマシだぁな』と」

 ――円卓の間に沈黙が落ちる。
 議長を含む参加者すべてが、にわとりさんに注目する。

 にわとりさんは、首を傾げたまま、硬直して、冷や汗をだらだらとかき始めていた。

「こっ、こここっここ、こ、コーン、ですか……?」

 何故かいきなり鳴き出すこけこっこ魔王……いや待て、これは動揺してどもっているのではないか。

 何故いきなり動揺するのか。

 もしかして、牛(うし)魔王の言ったことに対して、なにか後ろめたいことでもあるのではないか。

「……こけこっこ魔王どの?」
「ちちちちち、違うし。マシマシコーン旨し、とかしてないし。つまみ食いとかしてないし」

 ……語るに落ちてしまった。

 無言の視線がにわとりさんに突き刺さる。ちくちく、ぷすぷす、ぐさぐさ、どすどす。
 その圧力に耐えきれなくなったのか、がっくりと項垂れたこけこっこ魔王は止まり木から円卓へと降り、翼を大きく広げて体の前へ出しながら、うずくまった。
 ……こけこっこ魔王の、渾身の土下座であった。

「ごめんなさい言い訳にしかならないけど私にわとりなんですトウモコロシとか大好物なんですいつも差し入れてるピッザの上に乗ってるコーンがあまりにも美味しそうでついつい啄んじゃったんですちょっとくらいならバレないだろうとか思ってたんです魔王修行があまりにも辛くて魔が差したんです奇しくも夕方逢魔刻で魔王が魔が差したなーんちゃってとか思っちゃったりもしてほんとうにごめんなさい」

 怒濤のノンブレス。にわとりなのに肺活量すごい(そこじゃない)。
 それを即座に一字一句漏らさず(しかもこけこっこ魔王の方を見ていて帳面を一切見ずに)記録した、牛(うし)魔王も大概だが。

「伝説の魔王にあるまじき浅はかな行為をして肩書きに泥を塗ってしまったこと、深く反省しております。誠に申し訳ございませんでした。この処罰は如何様にもお受けいたします……」

 深々と頭を垂れ、坐して沙汰を待つこけこっこ魔王。俎上の魚ならぬ円卓上の鶏、か。

 円卓の間が、再び沈黙に包まれる。

 暫くして、動くものがあった。こけこっこ魔王にゆっくり近づき、そっとその翼に手を添える。
 行動を起こしたのは、今回の集会のホスト、パン屋魔王だった。

「……過ちを犯すのは、誰にだってあることだ。魔が差すのも然り」

 こけこっこ魔王が顔を上げる。屈んで視線を合わせていた、パン屋魔王の深い色の瞳を見つめ返す。

「知性あるものは、過ちから学んで成長する。誘惑に勝てなかったのなら、それを戒めとして、改めていけばいい。貴殿も、我々も、まだまだ成長途中。挽回の余地はいくらでもあるだろう?」

 そっ、とパン屋魔王がこけこっこ魔王の頭を撫でる。こけこっこ魔王の瞳からだばぁと滂沱の涙が溢れ出した。

「ごめ゛ん゛な゛ざい゛ぃ~~」

 無駄に渋い声でこけこけ鳴きながら泣くこけこっこ魔王。そんな彼の羽毛に包まれた翼をよしよしと撫で擦るパン屋魔王。

「にわとりだもんな。トウモコロシ美味しいもんな。夕方なら腹が空いててもおかしくないもんな。それは確かに誘惑に勝つのは難しい。だけど、学んだだろう?成長しただろう?これからは、誘惑に勝てるよな?」
「はい!!」
「うむ、良い返事だ。伝説の魔王の肩書きに恥じないよう、精進するのだぞ」
「はい!!」

 麗しき魔王の友情。それを見ていたその他の魔王たちは。

(ママか……)
(ママだな……)
(伝説のマ魔王……)
(いいなあ。私も羽毛モフりたい)

 なんというか、流石は伊達に『伝説の魔王』を名乗っていない、というか。
 みんな、ことごとくマイペースだった。

「あ、きれいに終わらせようとしたってそうはいきませんよ。反省云々はそれとして、ピッザのトッピングのピンハネの罰はきちんと受けていただきます」
「!?」

 議長の言葉に一気に現実に引き戻される面々。

 こうして、月に一度の魔王集会は、色々波乱はあれど、概ね粛々と進行していきましたとさ……

――第1話・完――

※※モデルにさせていただいた方は居られますが、この物語はあくまで二次創作です。フィクションです。実際のゲームプレイとは関係ないことをここに明記しておきます。

イラストコンテスト(イラストだけとは言っていない)とのことで、調子にのって続編などを書いてしまいました。すごく長くなった。どうしてこうなった。
超長乱文にてお目汚し失礼いたしました……

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