革本ちゃん公式(アルテス#3198)
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革本作家シリーズ
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とある作家の影

 二〇一七年の若葉が芽吹く頃合いに仮想空間上に公開されたとあるゲームにおいて伝説までたどり着いたとある作家に影が存在する、そんな情報を信頼できるとある筋から入手したわたしは極秘に調査を行った。その作家――ここでは便宜的にAとしよう――Aが伝説に至ったのは公開同年の霜降の頃であると言われ確かにそれは事実であるようだった。情報に強い幾らかの人々はそれを祝いそれ以上に多く居るその他大勢はその事実を知ることなく時が過ぎていく、そんな日常の一つともいえるやり取りが社会的な繋がりを構築する短文投稿型の仕組みの中に残っていた。
 伝説までたどり着いた作家という影とは対照的にすら思える存在の影、それを調査するにおいてなぜ我々は極秘を貫かなければならなくなったのか。そして今なぜここで世に知らしめんと筆を執るに至ったのか。調査するわたしが直面したAの異常性やこの件の特異さについて、あらいざらいお話ししてみたいと思っている。単純で簡潔で狂気的なそれを白日の下に晒すことが後に続くもののためになると信じるからである。

 伝説の作家になるという普通であれば称賛されはしても異常や狂気などという言葉で飾られることも無いはずの事象がなぜそれらの形容を付けて語られなければならないのか。それはAがそこに至るまでの経過における時間の使い方が一般的なそれとは常軌を逸するものだからだ。一般的に作家と言えば絵本から魔術書、はたまた申請書や店舗の設計図に至るまで様々な書き物を著す職種である、と同時に儲からない職だとも言われ専業でやっていくことが勧められないような言葉も見受けられるものだが、Aはその作家という職業を専業にし、それだけならばまだしも、数多くある商品の中からある一つのものに着目、熱中、いや妄執とも言える様子を見せた。革細工入門、それこそがAの主力かつ唯一の商品であり、Aの異常性の対象となった不運なる商品である。
 革細工入門を執筆するにあたり必要な品は、この文書を読む方々なら当然ご存知の通り、紙束にペンに獣の皮という三種類である。紙束とペンは一度の作成においてひとつずつ、獣の皮は五枚確定で消費することが知られている。作成される数は零か一と少なくその確率は作家の習熟度の値による。伝説と言われるのはこの作家の数値が十に到達したということであり、この値が九を示す段階から革細工入門の作成数は確定で一になるということがこれまでの研究により示されている。

 わたしはここにAのここ数十日における取引の記録を入手した。そこにあった買取の品は、紙束、ペン、獣の皮――以上。販売品目には日々の順位に応じて手に入る福引券とギフト券、優待の商品であるスピードポーションが含まれるものの、それ以外はもう御察しかと思われるが、ただひとつ革細工入門のみ。Aは少なくとも作家の習熟度が九の値を指して以降は、そしておそらくそれよりもずいぶん前からも、毎日革細工入門だけを作りそれに必要な品物だけを集め、脇目を振ることも期間行事に参加することもなくただそれだけを続けてきたのだ。
 先ほどは作家という職種で作成できる本という物品の種類について述べたが、当然作成や販売ができる品物は本だけではなく、できることは多岐にわたる。原料を採ることもできれば、もの作りもできる、勇者にだってなれる。そんな幾多の選択肢の中からAは数十日以上にわたってただひとつだけを選び続けているのだ。周りが市場の動きを読み、販売物を考え、利益を上げ、交流を深める中、ただ革細工入門だけをずっと。
 Aの業種と職種の数値についても入手することができたが、伸びているのは作家と本屋。すなわち革細工入門を作成する職種と販売する業種だけである。他にも数値が動いているものはあるが、その動きは材料購入などに関わるか商売開始の最初期に革細工入門と出会うまでの数日間で行われた説明すら可能な少量の経験で発生したものであると推測できた。

 わたしはこれらの記録を得るために動く中で、数々の妨害を受けた。それはただの不運であるかと思われるような些細なものから、言葉にするのもおぞましい深刻なものまで多岐にわたり、周囲には害のなさそうな様子を見せるAの印象とは違ったうすら寒いものを感じさせた。この調査においてAの様々な行動をその理由を探ってきたが、行動を激化させる理由はただ一つであった。革細工入門。Aの目の届く範囲ではそれの扱いには十分に注意する必要があると言える。
 伝説の作家という輝かしい顔を持つAの影とそれを呼び出してしまう引き金について十分注意されたい。今回の調査で自分というものが摩耗していく感覚を覚えたわたしはこの文書を書きながら調査に必要とした革細工入門を暖炉にくべた。調査から解放されたわたしはAのことを記憶のうちから消し通常の生活に戻っていくつもりである。わたしはわたしに課せられた責任をこの文書で果たしたものとし、静かで穏やかな日々を取り戻したいのだ。刺激を欲しての調査はわたしに火に触れることの危険を教えてくれた、それだけで十分であるし、十分とすべきであると知ることができた。

 文書を書くうちに部屋が寒くなってきた、そろそろ薪を取ってこなければ。そういえば先ほど呼び鈴が鳴ったが誰か反応したのだろうか。やけに家の中が静かな気がするが……。気になるのでこのあたりで筆を置くことにしたい。最後にもう一度だけ忠告しておく。革細工入門の取り扱いには気を付けるべし。わたしからは以上だ。

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