のんびりかあちゃん屋
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創作系
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始まりの大地を踏みしめて

重い扉を開けると、海の匂いがした。
波しぶきを立てて、船はどんどん進む。

「好きなことを好きなだけやりましょう。 この街を創るのはあなたです。」

こんなキャッチコピーのチラシを見たのは、つい1週間ほど前。
なんでも、MUTOYSという島で物を作って売ったり、商人同士でやりとりしたりして気ままに過ごせるところがあるらしい。

それなりに広い船の中に、乗組員ひとり、乗客ひとり。なんだか不安になってくる。
けどまあ、大丈夫でしょう。…たぶん。

時間厳守、毎月課金!ルールを守れないものはギルドから追放!…と、RPGの酒場から追い出されて、戦意喪失していたところに飛び込んできたその誘い文句に釣られ、カバンひとつでMUTOYS島行きの船に乗り込んだ。

ぼーっと今までのめまぐるしい日々を思い出していると、船がだんだん速度を落としていくのを感じた。
…遠くに島がうっすらと見えてくる。でも、まだ遠い。

「ああ、島には港がなくてね、この船では辿り着けないんだ。迎えがくるから安心しな」

キョロキョロとあたりを見回し始めた私を見て、そう言い放つ船員。
それにしても、迎えとはなんだろう?

「まあしばらくゆっくりしてたら分かるさ。イカの塩辛でも食べるかい?MUTOYS島産のイカは歯ごたえよくてうまいぞ」
「…いえ、結構です」
「そうかー。ところで、島に着いたら何をするんだ?やっぱり勇者?それとも、漁師になってイカを釣るかい?」
「は?勇者?」
「おっと、知らなかったのか。MUTOYS島ではな、街に住んで店舗を構えて、いろんな仕事が出来るんだよ。例えばこのイカの塩辛は、漁師がイカを釣ってきて、それを調理師があれこれして作ってくれるんだ」

あんたも食うか?と言いながら差しだされた塩辛のツボからは、イカがじっとこちらを見ている…ような気がする。

「他にも木こりや農家、裁縫師や錬金術師もある。まあ、なんでも好きなものをやってみたらいいさ」

そう話していたイカ推しの船員は、ピィーと甲高い笛の音がしたほうに目を向ける。私もその音につられて後ろを振り向いた。

おまるが、アヒルのおまるが浮いている。

「おっと、お迎えの到着だ」
「あれどう見てもおま…」
「うん?何か言ったか?」
「いえ、何も」

にっこり、笑いかける船員。どうやらアレはおまるではない、らしい。

そのおまるから顔を覗かせたのは、青い球体のようなものだった。ぎょろりとした目に小さく手がついていて、浮遊している。どういう技術でできているんだろう…?

「はじめまして、はじめまして!」

球体が喋る。見た目とは裏腹に渋い声をしているその球体がおまる…もといスワンボートを手際よく操作し、船からぐんぐんと離れて島に向かっていく。船員はイカの塩辛をつまみながら船を操縦し、来た航路を戻っていった。

青い球体は自らのことをNUと名乗り、MUTOYS島について色々教えてくれた。
島の中で商売をしながら、それぞれの役割を楽しみロールプレイを行えること。
業種と職種があり、それぞれ作業を行うごとに上達していくこと。
シンプルなルールでロールプレイを行え自由に行動できる一方、全ての職種・業種が平等に儲かるわけではないこと。
市場、流通、住民、コミュニティ、全てがプレイヤーに委ねられていること。

とりあえず住む街を決めてね!と大きな地図を差しだされ、街を選ぶ。そこから街の地図を差し出され、どこに店を構えるか決めてくれ、とのこと。
おすすめは?と聞いてみるが、NUと名乗った青い球体はにっこりするだけで何も答えない。

ひとまず、川沿いの土地で幹線道路へのアクセスもほどよいところに店を構えることにした。

島に到着すると妖精たちが出迎えてくれ、店舗まで案内される。青い球体はまたいそいそと沖に出ていった。
妖精が3体、自分の周りをくるくると飛び交いながら何か言っている。が、一斉に甲高い声で喋るものだからあまり聞き取れていない。

店舗に着くまでに甲高い声に囲まれながら、他の店舗の店頭をなんとなく眺める。
鳥が店頭で鳴いていたり、犬なのか狼なのか分からない動物がせこせこと本を書いていたり、包丁をひたすら振り回して獣を捌く店主が居たりとなんだか楽しそうだ。
中でも小さくてカラフルな生物が店主の周りをぴょこぴょこと飛び跳ねている光景はとても奇妙だったが、あれは「ミミ星人」というふしぎな生き物らしい。

赤いトタン屋根の木造店舗には、商品棚が3つ、荷車が3つ。
妖精たちに店内を案内してもらったが、がらんとしていてとても広かった。見た目以上にスペースはありそうだ。

あそこに最初のアイテムが入っているから、と示された先には小さな小箱が。何やら難しそうな字で書かれたチケットと、紫色の小瓶が20本、何やらこの周囲を指し示した地図が5枚。

「地図で探索するのです!」
「水汲みするのです!」
「いやいや地図を売るのです!」
「売ったらだめなのです!」
「くいぽっぽ!」
「「「くいぽっぽー!」」」

…うるさい。くいぽっぽってなんだ。

ひとまず街の中央部にある街の掲示板に足を運び、書きこんでみる。

『初めまして、今日からこの街に住むことになりました」

すると背後からヒトが迫っている気配がした。

「ようこそ、ミミ星人街へ」
「ここは地獄の三丁目」
「新たな地獄が待っている」
「ミミミー!」

…なんだか、私はとんでもない街に来てしまった気がする。

後日私がMUTOYS新聞を見て、あの丸い球体がこのMUTOYS島の創造主だということを知るのは、もうしばらくあとのお話。

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