朝が来た。
街の中心部に張り出された、たくさんの情報が書き込まれた紙を見つめ一喜一憂する店主。
政府の妖精が配った配給物をいそいそと開封し小瓶を妖精に渡す店主。
そんなことは気にせずマイペースに店舗前の掃き掃除を始める店主。
店主不在につき何もせず、ぼーっと空を見つめる妖精もいる。
未知の世界・MUTOYS島への航路が発見されて1年が経った。
政府は最初、1000人ほどの移住者だろうと予測していたが、人伝に紹介され噂は広まり、一時期は5000人を越す移住者が居たようだ。
その反動で一時期は過密状態になった街から不満も寄せられたりしていたが、今は本土に帰還した者も多く、その数はバランスが取れるようになり落ち着きを見せている。
モノを生み出し、売る。
好きなものを創る。
そんな世界があるなんて、1年前の自分はまるで想像もしていなかった。
土地によっては、道路整備が間に合わず、また砂漠化で劣化しところどころ剥がれ落ちた道路もあった。
それも今は綺麗に整備され、いくつもの街道が連なっている。
似た境遇や似た営業時間帯、また共通の趣味を持つ店主同士のコミュニティが増え、MUTOYS島の商品を愛するコミュニティも多数結成された。
その広がりは井戸の水路を通って、酒場、広場、街、島中のありとあらゆる場所へ情報と店主が駆けていく。
その店主たちの姿を見るだけでも面白いし、もちろん自分が走ってもいい。節度を守って騒ぐのも、酒場でひたすらくだらない話と変顔を垂れ流すのも、島の楽しみ方の一つだ。
春先には何やら木製装備一式で武装したなんとも愉快な一行が1日で小島を開拓し乱痴気騒ぎをして帰っていく、ということもあった。
パンを売ればお皿が貰える、というキャンペーンも行っていて、島中の店主がこぞってパンを買い漁った光景も見た。
変わらない日常の中にも、少しほっこりする出来事がある。
それだけでも、楽しい。
そういえば先日、こんな光景を目にした。
青い球体型のロボットと、黒いつんつんヘアスタイルの3頭身キャラがトコトコと街を駆けていた。
島の店主はさまざまな姿をしているので彼らの姿は気に留めることは無かったのだが、店先を覗いて楽しむ「住民なりきりロールプレイ」とは少し違った行動をしていた。
彼らは何か短い言葉を交わしながら店先を見て頷き、微笑み、驚き、笑いを堪え、時には目を鋭く光らせながら足早に街から街へと移動していく。
何をしていたのか気になって、驚いた表情を見せていた商品をそっと覗きに行くと、先月発見されたばかりのかわいらしい「うさぎ」がそこに居た。隣にはにんじんがゴロゴロと木箱に入っており、うさぎはにんじんを食べたそうな目でじっとりと眺めているが、妖精が監視の目を光らせている。
これはなんとも微笑ましい。
妖精いわく、あと3匹もうさぎがいるからにんじんの在庫監視が大変なのだそうだ。
政府職員にミミ星人や妖精ではなくヒトやロボットがいることは知っていたが、あの時初めて彼らを見た。
政府で業務を行う妖精がいるため、ヒトやロボットや王が直接出向いて何かを語ることは少ない。
調査や抜き打ち点検のためでないのなら、彼らは何故姿を現したのだろう?と思っていたが、閑古鳥が鳴く店先でごろごろしている自店の販売妖精の言葉でハッとした。
「そりゃあマスター、政府の人間だって店主ですもの。ミミ星人たちには『官民関わるべからず!』なんて言われてるけども、たまには島巡りして息抜きも大事でしょう?」
そうだ、彼らも店主なのだ。
砂漠と、ひっそりした奥地で店を構えるらしい有名なふたりのことを思い出す。
きっとその有名なふたりが、先日見た彼らなのだ。
販売妖精の今日の来客情報を一通り聞いたあと、優しい目をしながらひとつひとつ店先を覗く彼らを思い出す。
島を、商品を、作り上げられたアイデアを見守る。
変わらない日々の中にも、こうした彼らの行動がなくては島は成り立たない。
そんな優しい瞳に見つめられ続けた366日目の空が、だんだんと明るくなってきた。
もうすぐ、朝がやってくる。
通り過ぎていく旅人のパプリカマントの後ろ姿を見送ったあと、ベッドから降り朝の支度を始めた。
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書きかけで寝たらなんかよく分からんことになってたのでとりあえず供養。
1周年おめでとうございます!
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