段々日が沈むのが早くなってきた。
なんでもMutoy島は冬を迎えたらしい。僕らMutoy島の住民は大体4週間で人の入れ替えが起こる?らしいから僕はきっと冬の中間ぐらいに次の人と交換する。
お父さんもお母さんもまだいるけど来週にはもうおじいちゃんおばあちゃんになる。確か残り2日、僕もその時にはおにいさんになるのだって言ってた。
僕は今、Mutoy学校に通っている。Mutoy学校では妖精さんが島での生活についてあれこれ教えてくれて僕は来週からおにいさんになり、街を守るためのお仕事をすることになる。
街を守るために、ぼくらとは違うお店屋さんから剣と盾を買って街に来るモンスターをやっつけるのだ。
モンスターにはいろいろいて、「スライム」「ゴブリン」「オーク」は僕も見たことあるが、スライムはぷにぷにした可愛いやつ。ゴブリンはちっさい鬼さんあんまり怖くない。オークはおっきい武器持った奴だ。お父さんに近づくなって言われたから近づいてないけどスライムぐらいなら友達になれるんじゃないかなって思う。それから「トロール」とか「ドラゴン」がいるらしいけど僕は見たことない。なんでも街の外にいるからあんまり相手をしなくていいらしい。
「おにいさん、かぁ……」
ほんとは、僕はちょっと大人になるのが怖い。大人になったらお役所からお金をもらえるから僕の大好きなもふもふの羊さんとか見てて面白い糸を吐く蚕さんをお給料で買うことができるようになるんだけどあのぷにぷにのスライムさんを倒すのはかわいそうだなって思うし、オークは僕はやられちゃうんじゃないかって不安になる。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい。お醤油買ってきてくれた?」
「おーう。よく仕事できたじゃねえか」
帰ってきた僕をお母さんが待っていた。お父さんも早くご飯食べたかったのか机にもう座ってる。
「うん!買ってきたよー!」
お父さんも褒めてくれてなんだかいい気分になった僕は元気よく答えた。
「おうおう、お前も来週からはお仕事だからな。よく食べて大きくならなきゃいけないぞ」
お父さんも機嫌がいいのか頭をがしがししてくる。お父さんが褒めてくれるのはやっぱりうれしい。やっぱりいいことをした後は僕も気分がいい。
「ねえねえお父さん。今日はお父さんもすっごく元気だけど何かあったの?」
いつも褒めてもらってばっかりだから僕もお父さんを褒めてみよう。僕も人を褒められる大人になれるように頑張らなくちゃ。
「おーうわかるか?今日はお父さんドラゴンを倒してきたんだ。」
といってお父さんはなんだか緑色のよくわからない鱗?みたいなのを取り出した。
「これはドラゴンのうろこでな。お父さんは今日街の人と協力して悪いドラゴンを倒してきたんだぞ」
お父さんはその緑色の鱗をほこらしげに持って自慢してきた。お父さんはいつも元気に僕と話してくれるけどこんな顔を見るのは久しぶりだ。
「すごいねおとーさん!これがドラゴンのうろこかぁ……」
さりげなくお父さんを褒めながらしげしげとドラゴンのうろこを見つめる。これを纏っていたドラゴンはどんなうろこだったんだろう。ドラゴンは大きな体と火を吹くらしい。ぎょうしゃのゆーしゃさんが普段は討伐してるらしい。
「すごいねお父さんは」
「うん!お父さんすごい!もっとドラゴンのお話聞かせて!」
「お?ドラゴンのお話か?いいだろう沢山聞かせてやろう!ドラゴンはとっても大きな体でな?」
「大きな体?オークぐらい?」
「オークなんかよりよっぽどおっきいぞ!そらもうお隣の家よりもおっきい!」
「お隣の家より!?」
「ああ勿論だ!それにこの鱗だって小さな奴でな?普通の鱗はもっと大きいし、翼だって持ってる!火を吹くのだって本当だったんだぞ?」
「へー!お父さんもっともっと!」
それから僕はお父さんに沢山お話を聞かせてもらった。なんだかドラゴンは体が大きくて火も吹くし翼を持ってる。普段は洞窟に住んでてとっても怖い奴らしい。
僕はお父さんのお話を聞いて本物のドラゴンってのがどんな奴なのかとっても気になってきた。お父さんのお話を基に絵を描いてみたけどこんな感じなんだろうか。とっても気になる!最近はドラゴンさんにけんじょう?したりあいさつする人もいるらしい。なら僕だってお話しに行けるはずだ。
「よーし!水筒よーし!お菓子よーし!すけっちぶっくよーし!地図よーし!」
僕は学校が終わって門の前にいる。門番さんには近くで薬草詰んでくるだけって言ってある。地図は貯めたお小遣いを使って「たどころ牧場」ってところで買ってきた。準備は万全!今日はドラゴンを見に行くぞ!
それから僕は地図を頼りに冒険をした。外の世界はすごい!街で売ってる「色草」もすっごく元気に咲いてるし「薬草」だって街みたいにしなびたものじゃない!妖精さんたちがアイテム集めてるのも見れるし食用獣を沢山もった妖精さんだっていた。空だって街より広いし水がこんなに広く広がってるだなんて知らなかった!
街の中と違って外で色んな事があるんだって思える冒険をしながら僕は夕方になってようやくドラゴンさんの巣にたどり着いた。ドラゴンさんはどんな人なんだろう?失礼なことしたら食べられちゃうかもしれない。気を付けないと……
「ご、ごめんくださーい。」
僕は学校で習った丁寧なあいさつをする。洞窟は暗いしなんだか気味が悪い、上から水が垂れてくるし壁がごつごつしててたまに手がちくちくする。
「…なんだ…人の子か…」
洞窟の中に低くておどろおどろしい声が響く、これがドラゴンの声。僕が思っていたおじいさんみたいな声とは全然違う……。
カランッと不思議な音が後ろで響いた。ふと気づくと僕の足は後ろに戻ろうとしていて、何かに引っかかってしまった。僕はそのままバランスを崩して倒れてしまった。そして僕はその何かの正体に気づいてしまった。
「ほ、ほね?」
そこにあったのは人の顔みたいな骨だった…これ、もしかして?
「人の子よ、何をしに来た。」
さっきの声が頭の上から響く、もしかして、この骨って……このドラゴンさんが食べた人の……
「ご、ごめんなさい!許してください!僕どうしてもドラゴンさんが見たくて……」
いやだ……食べられたくない……怖い…かえりたいおかあさん…おとうさん…
「姿が見たい?よかろう。見せてやろう」
ズン、ズンと洞窟の中を踏みしめ、ドラゴンが近づいてくる。音が近づくにつれて振動も大きくなり上から水が落ちてくる
「嫌だ!来ないで!」
それでも気にせずドラゴンは近づいてきて、振動で近くの骨が揺れた。そして僕の目の前に出てきたのは白くてすかすかで目が光るドラゴンだった。白い光沢が目の前にきた…スケッチブックにあった大きな鱗を持ってるわけでもないし薄い膜のついた翼があるわけでもない、動く度にカタカタ骨の擦れる音のする怖いドラゴンだ。
「何故だ?見たいといったのはお主だろう?」
「だ、だけど…僕はドラゴンって言ったらもっと…!」
そうだ。僕の思い描くドラゴンはもっと…
「まったくもー。そっちのドラゴンだったら食べられちゃってるよー」
後ろからきれいな声が響く、ドラゴンさんとは違って高い声。後ろを振り向くと骨の装備で身を固め、緑色の腕輪をして置物を持っているお姉さんがいた。
「妖精が子供にスカルドラゴンの巣の地図が売れたっていうから何事かと思って様子を見てみればやっぱりか…。はいスカルドラゴンさん。子供の悪戯だからこれで許してね。」
そういってお姉さんは手に持っていた狸と猫の置物をドラゴンさんの前に置いた。…なんでこの人はこんなに普通にしてるんだろう…怖くないの…?
「貴様は?」
「私はたどころ、確か今日のお昼にうちの妖精がそっちに行ったはずだよー」
「ああ、あの勇者か。あの献上品は素晴らしかったぞ、例の地図Lv6は受け取ったか?」
「そりゃどうも。……え?地図Lv6?」
「ああ、礼を確かに渡したが…」
お姉さんは淡々とお話をしている。なんでこんなお話できるの?相手はドラゴン、お父さんは人を食べちゃう怖い奴だって…それにこんなに骨だってあるし食べられちゃうんじゃ…
「あーの妖精…さては…すぐ帰らないと!ほら行くよ!」
そういうとお姉さんは僕の手をとって凄い勢いで走り始めた。え?え?ドラゴンさんは?大丈夫なの?
「はーもう。君もあんな危ないことしちゃだめだよ?本当のドラゴンの方にいってたらどうするつもりだったの」
門の前につくと夕方の暗い空になっていて、街の人は家に帰っていた。その中僕はお姉さんに怒られた。気軽に言ってたけどさっきのやりとりは…?
「ご、ごめんなさい。どうしてもドラゴンをこの目で見たくて…」
「そっか。でももーちょっとおっきくなってからだなー。君も来週で大人でしょ?背伸びしたいのは分かるけどその時はきっとくるから、ね?」
そういってお姉さんは僕の頭を軽く小突いた。僕はふとバランスを崩して倒れこんでしまった。
「は、はい…」
「よーしじゃあ約束だ。君が立派な大人になったらお姉さんが今度は本物のドラゴン倒すのにつきあってあげよう。それまでにおっきくなりなーじゃあね。」
お姉さんはそのまま夕闇に溶けるように去っていった。助けてもらったお礼も言えなかったしちゃんと謝れもしなかった……
「よし」
僕は決意した。立派な大人になったあのお姉さんに今度ちゃんとお礼を言おう!
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