チリン、チリン
妖精たちが食用獣の解体をしているところを手伝っていると、他の店の妖精が来ていた。
どうやら獣の肉をご所望のようだ。
ちょうど解体し終わった新鮮な部位を渡し、ひらひらと手を振る。
暑い中あの量の肉を運ぶのは時間との勝負だ、大変だな…見送ってから冷凍庫を開けた。そろそろこちらも氷を頼まねばならない。
手の空いていた妖精に氷のお使いを頼んで、また解体に戻った。
突如アダマンチウム街に出来た森に住み込んで数日、街内の買い物に少し遠いという難点はあるけれど、薬草、枝、丸太、獣まで取れるここは解体業者としては最高の立地だ。
あとは氷さえ近ければなぁ…と贅沢を言ってみるが、それはそれでまた妖精の手が足りなくなってしまう。
他の店との取引で友好関係を築くのも商人として大事なことだろう。お得意さんとなりつつある何店かの名前を思い浮かべる…と、他の作業を頼んでいた妖精が呼びに来た。
最近流行っている、オリジナル商品を作れる「レシピ」というもので作っていた鎧が出来たようだ。
何を隠そう、ここに来るまで私は鍛冶職人をやっていた。鉱石を掘り、インゴットにして武具を作る…今でもその作業は大好きだ。ただ少し、ほんの少しだけ、同じことの繰り返しに飽きてしまった。職業を自由に選べるこの島に住んでいるんだ、違うこともしてみよう!とここに引っ越したわけだ。
今までと勝手の違う職業はとても楽しかった。氷を扱う業者や食用獣を扱う業者を探し、自分で作れるものは何かないか考える。今ではたまに自分で食用獣を狩りに行けるまでになり、そこそこの狩人だろう。
……とはいえ、そろそろ鍛冶ハンマーが恋しくなってきていた。そこで先程の「レシピ」だ。自分の好きな材料、道具でオリジナルの商品を作る。私は元々憧れていたオリハルコンで鎧を作ってみた。妖精が持ってきてくれた鎧を手に取る。
……うん、中々の出来だ。この「レシピ」、高額にも関わらず、他の店主がこぞって手を出すわけだ。この満足感はクセになる。これは量産体制に入らねばならない。
ああ、そういえば今度島に引っ越してくる友人に手紙を書かなければ…
と、まあ…こっちの生活はこんな感じだ。
もちろんひたすら利益を追求するのも君の自由だ。私はのんびり作業しているのが1番性に合っているよ。
もし君がアダマンチウム街に来るのであれば歓迎しよう。暖かい街だ、憩いの場に顔を出せば他の店主も声をかけてくれる。
君が有意義な生活を送れるよう、祈っているよ。
アダマンチウム街(48,3)
工房香夜 #24390
コメント
コメントにはログインが必要です