豆だ!オーガだ!節分読み聞かせ会
~ MUTOYS名作選 『泣いた赤オーガ』 ~
昔々、島のあるところに、仲良しの二人の子供オーガがいました。
赤い体のアカ兵衛はやんちゃで素直、思ったことはすぐ顔に出ます。
そして、青い体のアオ助はずっと落ち着いていて、すぐアツくなるアカ兵衛のお兄さん代わりです。
二人はいつも一緒です。遊ぶときはもちろん、ご飯も、お風呂も、寝るときも。とってもとってもなかよしこよしです。
今日も二人は、山で一日中、それはもう体中泥まみれになるまで遊んで、やっとオーガたちの村に帰ってきました。
でも、いつもと村の様子が少し違います。
お母さんオーガたちが、井戸の横で、うんざりした顔をしてしゃべっていました。
「今年も豆まきの時期よ、いやねえ。」「そうよそうよ、なんで投げつけられないといけないのよねえ。」「危ないから、人間たちのところへは近づかないよう、うちの子にもしっかり言っておかないと」「ほんと、いやねえ」
アカ兵衛はキョトンとしていますが、アオ助はすぐになんのことかわかったようです。
「ああ、そうだった人間たちの豆撒きか。今年ももうそんな時期なんだね。」
アオ助は言いましたが、アカ兵衛はまだわかっていない様子です。
「ほら、去年はお前、今日は人間の子供を脅かして遊ぶんだって言って走って行ったはいいけどさ、その子供たちに豆をしこたま投げつけられて、反対にべそかきながら逃げ戻ってきたじゃないか。」
はっと気づいたアカ兵衛。恥ずかしさのあまり、もともと真っ赤な顔がもっと真っ赤に染まって、そしてだまりこくってしまいました。
「ああ、ごめん。嫌なふうに言っちゃったね。悪かったよ。」アオ助は、まずかったなあと、あやまりました。
アカ兵衛は、すぅっと大きく息を吸い込んで、そしてやっと口を開きました。
「いいんだ。オレが情けなかったのが悪いんだ。よし決めた、今年は正面切ってあいつらに立ち向かってやる!豆なんか投げたって、無駄だってわからせてやる!」
アカ兵衛のいつもの強がりです。慣れっこのアオ助は、相づちだけうって、その間他のことを考えていました。
「ところでアカ兵衛、なんで人間たちは僕たちに豆を投げつけるのかな。それも、一年の決まった時期になんて、不思議じゃない?」
アカ兵衛はなんのことかわからない様子で首を傾げていましたが、アオ助は気にせず続けます。
「そうだアカ兵衛、明日は探偵ごっこにしよう。なんで人間は豆をぶつけてくるのか、調べよう!そしたら、きっと、どうしたら投げるのをやめてもらえるかもわかるに違いないよ!」
アカ兵衛は二つ返事で賛成しました。『探偵』という響きがかっこいいと思ったからです。
そして二人は、いつものように、一緒にご飯を食べ、一緒にお風呂に入り、一緒に眠りました。夢の中ではもう、名探偵気分です。
次の日、おひさまが顔をだすやいなや、2人は飛び起きて村を飛び出しました。さあ、聞き込み開始です。
まずニ人が向かったのは、ゴブリンさんの洞窟です。
「こんにちはー」「なんだなんだ?どうしたどうした?」ゴブリンさんたちがわらわらと出てきました。
「なあなあゴブリンのおっちゃんたち、なんで俺たちが豆を投げられるのか知ってるか?」
ゴブリンたちは口々に言います。「知らない」「わからない」「関係ない」
それどころか、間違って自分たちに豆を投げやがるやつをなんとかしてくれと頼んでくる始末。もうこりゃだめだと、二人は逃げるようにその場をさりました。
もうちょっと、ものをよく知っているモンスターに訊かなければいけなかったようです。二人もそう思ったのでしょう、次はミノタウロスおばさんに訊きに行くことにしました。
「おーい、ミノおばさん!教えてくれよ!」アカ兵衛が元気いっぱいに言いました。
「あらあらどなた?まあまあオーガの坊やじゃない。なになにどうしたの?」二人はさっそく豆のことを話しました。
「ごめんね。わたしも知らないのよねえ。」おばさんは答えは知らないようでしたが、、、
「でも、前に人間たちが言ってたわ。オーガは『えんぎ』が悪いからって。もしかしたら、その『えんぎ』っていうのが関係してるのかしらね。」
二人は初めて手がかりを得ました。でも、『えんぎ』とは一体何なのでしょう?二人にはわかりませんでした。
もっとものしりなモンスターに訊かないと。二人は次に、ヴァンパイア男爵のところに行くことにしました。
「ごめんください。ヴァンパイアさんはいますか?」アオ助がおやかたの扉をノックします。
扉が重苦しい音を立てて開きました。「これはこれは、これはオーガの坊っちゃん達。今日はどうしたのですか?」おやかたの主、ヴァンパイア男爵です。
二人はさっそく『えんぎ』のことについて訊きました。
「『えんぎ』ですか。ええ、もちろん知っていますよ。そうですねぇ、『えんぎ』というのは、なにかのフリをすること。簡単に言うとそんなところでしょう。」
『えんぎ』がなにかわかった二人は大喜び。「ありがとうございました!」大声でお礼をして、その場をさりました。
「でもさあ、アオ助。俺たちそんななにかのフリなんかしたことかるかな?」ふとアカ兵衛が口にしました。それを聞いたアオ助は少し考え込んで・・・。
「たしかにそうだよ。僕たちオーガは、アカ兵衛ほどじゃないにしても、みんな正直者だもの。嘘はもちろん、なにかのふりなんかすらしようとは思わない。もしかしたら、『えんぎ』は関係なかったのかも、それとも別の『えんぎ』があるのかも。」
うーん、うーんと二人は考え込みました。でも、とてもわかりそうにありません。もっともっとものしりなモンスターに訊くほかありません。「だったらこうしよう。長老のところに訊きに行こう!」二人は早速、長老のいる洞穴に向かいました。
長老とは、うんと昔からこの島にいるスカルドラゴンのおじいさんのことです。おじいさんは、この島の他のどんな生き物よりも、ずぅっと昔から島に住んでいるといいます。
「長老ー!」「おじいちゃーん!」二人が口々に叫びます。「おやおや、この声は、オーガの子どもたち。たしかそうじゃ、アカ兵衛とアオ助、仲良し元気の二人組じゃな。」長老が、洞穴の奥から、カラカラ音を立てながらやってきました。
二人は豆のこと、『えんぎ』のことについて話しました。それを聞いた長老は、特に悩むこともなく答えました。
「それは『えんぎ』違いじゃのう。ミノタウロスのお嬢ちゃんが言っていたのは、そうじゃなく、めでたいだったりいいことが起こりそうな予感のことを言うんじゃ。」なるほど、それなら『えんぎ』が悪いと追い払われることも納得がいきます。
それでは、どうすれば『えんぎ』は悪くなくなるのでしょう?どうすれば豆を投げられずにすむのでしょう?二人は話し合いましたが、ちっとも答えが浮かびません。すると、考え込んでいた長老が口を開きました。
「前に一度聞いたことがあるんじゃが、人間たちは紅白、つまりのう、赤色と白色のものがそろっていると『えんぎ』がよいと思っておるそうじゃ。そこでの、アオ助、お前の体が白くなれば、アカ兵衛とそろって赤白になると思わんか?」
二人はキョトンとしています。長老は気にした様子もなく続けました。「ちょうどここにこのまえ角型を整えたときに骨粉があってのう。これを体に塗れば、それはもうまっ白になるぞい。」
正直なところ、二人はそんなことで本当にだいじょうぶなのか信じられませんでしたが、物は試しと長老の提案を実行することにしました。
「すげえ、ほんとうにまっ白だ!」何ということでしょう。骨粉を塗ったアオ助は見事にまっ白になりました。「じゃあ、今日一日僕はシロ助だね。」二人はあんまりに面白くって、大声を上げて笑いました。
「それじゃあ、行こうか。」二人はそのまま人間の街に向かいました。さて、赤白めでたいオーガは、人間たちに受け入れられるのでしょうか?
・・・
「「こんにちはー!!」」人間の街の前までやってきた二人は、大声で挨拶をしました。
「なんだなんだ?」「おいっ、オーガだ!」「みんな豆を持て!」オーガに気づいた人間たちはおのおの豆を手に家から出てきました。やっぱり、体の色なんかは関係ないのでしょうか?
「ちょっと待て、なんかへんじゃないか?」「白いオーガなんて見たことないぞ。」「ほんとにオーガか?」おや、でもいつもと様子が違います。いつもならもう今頃には豆を雨あられのように投げつけられているはずです。
今しかない、二人は打ち合わせたとおりに言いました。
「僕たちオーガは『えんぎ』が悪い。だからみんな豆で追い払うんだよね?」「けど俺たちを見てくれよ。赤と白、紅白でとっても『えんぎ』がいいじゃないか。追い払う必要なんてどこにもないぞ。」
それを聞いて人間たちは、、、
「なんだ、おもしろい奴らじゃないか」「たしかに紅白でめでてえな」「思えば別に俺らオーガに何されてるわけでもねえ。」「そうね、縁起がわるくなきゃなんの問題もないんじゃないかしら」
人間たちは、手にした豆を下に置き、少しずつ二人との距離を縮めていきました。なぁんだ、こんなに簡単だったのか。これで人間たちとも仲良くできる、そう思った二人の顔は、自然と笑顔になっていきました。
「みんな、騙されるでねえ!」
人間の子供の声が響き渡りました。
「そいつらは、オーガ共はオラの父ちゃんのかたきだ!」
盛り上がっていた人間たちの声がやみました。
「オラの父ちゃんを食いやがったんだ!」
人間たちが、ざわつき始めました。
二人にはわかります。オーガは人間をとって食べたりはしません。きっと何かの間違い、でもアオ助には一つ思い当たることがありました。
・・・
半年ほど前のこと、オーガの村に弱りきった人間が一人担ぎ込まれたことがありました。
どうも崖から落ちて怪我を負い、そのまま何日もそこから動けずにいたようです。
担ぎ込まれたときにはもう、手遅れでした。
直に、その人間は息をしなくなりました。
オーガたちは、あんまりにかわいそうな人間を手厚くとむらうことにしました。
オーガたちは、死んでしまっても、その体を生きている者たちが口にすれば、一つになっていつまでも一緒にいられると、みんなそう思っています。
かわいそうなその人間は、村全体で、手厚く、とむらわれたのです。
・・・
「ちがうんだ。もう、遅かったんだ。村についたときにはもう手遅れだったんだ。」
「だげども食ったんだろう!」
「それは、みんなで決めたんだ。せめて手厚くとむらってあげようって、家族のいるだろう、この島に残してあげようって。そんな食べるために捕まえたりだなんて、そんなこと僕たちオーガは絶対にしないよ!」
「うるせえ、やっぱり食ったんだな・・・。死んだって人間は人間だ。父ちゃんは父ちゃんだ!おめえらは、人食いだ。人食い鬼め、父ちゃんを返せ!」
人間たちはもう、大騒ぎです。
「人食いだって?」「なんて凶暴なんだ。」「やっぱりオーガは追い払わないと危ないわ」「追い払う?ダメだ、徹底的に退治しないと。」「子供たちはみんな家の中に!危険な人食いオーガから少しでも遠ざけるんだ!」
二人は呆然としていました。なにも、解決はしませんでした。
「そうだ、今確か宿に勇者様がとまってたよな?呼んでくるんだ!」「勇者様なら人食いオーガもイチコロだ!」「勇者様!勇者様!」「やっちまえ!やっちまえ!」「人食いオーガをやっつけてくれ!」
逃げなくちゃ。でも、二人は全身が震えて、体をうまく動かせませんでした。
そうしているうちに、剣をかけた人間がやってきました。きっとあれが勇者です。勇者はとても強いと、二人でも知っています。子供のオーガでは、とてもかないません。はやく逃げ出さないと、退治されてしまうかもしれません。
勇者が拳を構えたその時でした。「アカ兵衛!逃げなくちゃ!」アオ助が叫びました。それはもう、今まで出したこともないような大きな声でした。
アオ助はアカ兵衛の手を引っ張って、駆け出しました。一瞬、アカ兵衛は立ちすくんだままでしたが、引っ張られたことに気づいて、すぐに一緒に走り出しました。
必死に走って、走って走って、走って走って走って、途中一度勇者に追いつかれ叩かれそうになりましたが、なんとか街の外までやってきました。しかし、勇者はまだ追ってきます。
二人はもうヘトヘトです。もう、そう長くは走れないでしょう。そうすれば、勇者に追いつかれて、疲れ切った二人は何も出来ずに・・・。
そうなるくらいならと、二人は足を止め、勇者の方に向き直りました。勇者は、とてもつらそうな、やるせなさそうな、色々な気持ちが混じったような表情をしていました。
けんかもほとんどしたことのない二人は、不格好に、でも必死に構えて勇者の攻撃に備えました。
向かってきた勇者は、二人のすぐ前で、足を止めました。
「行けよ。」勇者は言いました。
「ここなら街のやつらからはもう見えない。退治したってことにしておくから、もう二度と人間の街に近づくんじゃないぞ。」
二人は、頷くことしか出来ませんでした。
そして、森の中へ、二人のオーガは姿を消しました。
・・・
一週間が立ちました。
ここはオーガの村。ここには仲良しの二人の子供オーガがいます。
赤い体のアカ兵衛と、青い体のアオ助。二人はいつも一緒です。遊ぶときはもちろん、ご飯も、お風呂も、寝るときも。とってもとってもなかよしこよしです。
でも今、二人は一緒ではありません。
アカ兵衛は、あの日からずっと自分の部屋に引きこもったまま。部屋からはただただすすり泣く声が聞こえてます。
アオ助は、いつもと同じように過ごそうとしています。でも、アカ兵衛を引っ張りだせるだけの元気はありませんでした。
人間たちと仲良くなりたかっただけなのに。仲良くなれたと思ったのに。
どうして、うまくいかなかったのでしょうか?誰か悪かったのでしょうか?
考えても、二人とも答えは見つけられませんでした。でも、これだけはわかりました。自分たちは、もう、決して、人間とは仲良くなれないのだろうと。
― お し ま い ―
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