当店は今日で創業85日、最近やっと信頼され始めたばかりの小さな細工師のアトリエです。
当店の短い2018年を語る上で外せない要素はレシピ開発でしょう。
妖精達がすああまに少量のチーズを混ぜて一口大にちぎり、乾燥させる。表面が乾いて砂糖が浮き出てカリッとし、中はまだモチモチの状態で、表面に顔料で色とりどりの模様細工を施し、ビンに詰めればミルク餅飴の出来上がり。
当店が初めてレシピ開発に手をつけたのが、「食べられる細工品」であるミルク餅飴で、2018年はこの餅飴作りを頑張った年でした。餅飴の開発は難航し、三回の作り直しと当店にとっては破産するような資金がかかり、最後はもう嫌だ、もうレシピ開発なんてするもんかと思うほどでした。
そうして、見ているだけで楽しくなるようなカラフルな飴のビン詰めが出来ました。少女からおじいさんまで幅広い世代が、この餅飴を嬉しそうに購入していくのを見ると、店主も妖精も作って良かったと思うのでした。
しかし、徐々に店主には他の気持ちも生まれてきたのでした。
そして2018年の年の瀬に、あんなにもうやらないと思っていたレシピ開発に着手したのでした。
乳鉢で魔石を細かいパウダー状にすり潰し、薄い水色のポーションに少量溶かし込むと、僅かに青みがかった薄いピンク色になる。それを少しずつ、一滴ずつ凍らせて細工を形作っていく。ノミで削る彫像とは違い、鳥の羽根一枚、魚の鱗一枚を花びらのような小さな桜色の欠片を重ね合わせて作っていく。そして出来上がった生きているような精巧な細工は、実際に魂を宿し動き出す。
当店の二作目のレシピは、「生きている細工品」桜色の癒し手でした。
熱で溶けない様に魔石を少し入れて凍らせただけで、ポーションと大差ない回復力なのに割高過ぎると、最初は店の妖精にすら呆れられる品でした。
この桜色の生き物はとてもフレンドリーで傷ついた人に近付き寄り添い、そして溶けて消えてその人を癒します。
買っていく住民達は、この子でしか癒せない傷があるといいます。
本職の料理人に味ではかなわない。
本職の錬金術師に薬効ではかなわない。
他にも本職にはかなわない。
勿論細工師は細工では誰にも負けないけど、他の分野でも細工師の技術で何か新しい価値が作れるんじゃないか。
2019年は三作目の「細工師に出来ること」が見つけられたらいいなと思いながら、今日も飴に色を塗り、ポーションで生き物を作っている当店です。
ハナミズキ問屋 #39784
※これは小説です
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