MUTOYS島。かつて妖精のみが住まう島であり、生態系もこの島のみで見られるもの。妖精たちはこの島で独自の文化を築き上げ、外部の敵の侵略を拒むため魔法で結界を作り、平和な暮らしをしていた。
しかしある時、難破船が島へと流れ着いた。
結界はこの島を見えなくし、万が一見つかったとしても訪れる者を拒むものだが、このような不慮の事態には柔軟に対応出来なかったらしい。
その難破船には大勢の人間が乗っていたが、一方で死んでしまっていた人もそれなりにいたようだ。
妖精たちは議論した。この者たちをどうするべきかと。
「助けてあげよう」慈悲の心
「殺してしまえ」怒号の嵐
「放っておけ」無慈悲な声
それでも結局『人間』という生物に対する興味は拭えず、結果を待たず勝手に人間たちを助けてしまった。
助かったことに喜ぶ者も、生き残ってしまったことを嘆く者も、妖精という異種族に恐怖する者もいた。
助けた人々の妖精たちに対する敵意はなく、感情の問題は時間と共に解消されていった。
妖精たちは人間の知識に震え、人間たちは妖精の文化に動揺した。
人間の知識は瞬く間に島全域に広まり、やがて自然だらけの島には『街』が出来上がっていった。
しかし問題も起きた。それは妖精と人間の意見の相違ではなく、環境であった。
一つは、時の流れ。
人間世界での一年はこの島では一日にすぎず、木々も草花も動物たちも、もちろん妖精たちもそうした時間軸に合わせて生きてきた。
一つは、生態系。
この島特有の時間軸により、木々は切られようが折られようがすぐ再生し、動物たちはあっという間に繁殖し、妖精たちは昼夜関係なく騒ぎ合う。
さて、こんな環境で人間たちが生き抜けるだろうか?答えは容易に想像出来るだろう。
妖精たちに言わせれば、とんでもない早死だった。
人間の残した知識を妖精たちは上手く文化に取り入れようとしたが、人間の全てを聞いたわけではない。
ただ『人間の知識』という魅力と、妖精たちには発展出来ず廃れてしまった『街』が後世に伝わっていくのみであった。
それから時は流れ幾星霜。
今からそれほど遠くない過去に、長寿で常に面白いものを探す妖精たちの人間への知的欲求は限界を迎え、島の結界が解かれた。無論、勝手に。
程なくして人間が訪れ、知識の共有、不戦の約定などを条件として、妖精と人間によるMUTOYS島共生協定が結ばれた。
人間たちは移民として島に移住するようになり、目下の問題であった環境面の問題は人間がとても好きだった妖精たちの長年の研究により、魔法であっさりと解決された。
これにより、人間は魔法なしでは生きていけないという制限はあるものの、この島での自由な暮らしを約束されたのである。
自由を手に入れた人間たちの行動は非常に多種多様で、妖精の知的欲求にも負けないほど好奇心が旺盛であったが、その中でも際立つ者たちがいた。
『商売』を営む人間たちである。
『街』の発展に最も貢献し、土地の開発に最も積極的で、新しいモノを生み出すことに最も優れた人間たち。
彼らは島の環境で作られたモノに価値をつけ、売買を始めた。
例えば、自らの力で動物を狩る者。
例えば、動物を買い取り、解体し、部品を売る者。
例えば、部品と部品を組み合わせて道具を作る者。
作り出す喜びよりも利益を追求する者や、個人の利益よりも己のやりたいことを追求する者。
そういった人間たちを島の発展に結びつけるため、共生協定にはこう書かれている。
『商店を営みたい者には、店舗と商売を始める上での最低限を支給する。この約定には制限はなく、何者でもこの支援を受けることが出来る。』
『ただし、商店として島に貢献していないと判断された場合は店舗を即刻退去とする。』
『また、退去を余儀なくされた者でもこの支援は再び受けることが出来る。』
この物語は、協定に沿って支援を受けた、一つの小さな駆け出し商店のお話。
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