こんにちは、299です🐾
創作の続編です。
空飛ぶヒトデと白いトゲ(Ⅱ)
私メリーさん、今あなたの…という有名な台詞を知っている人はきっと少なくはないのではないのだろうか。そんなことを考えながらぽねっさは呟いた。
「私ぽねっさ。今デカパプリカの口の中にいるの」
「ポニェッシャシャァァン!?ドボジヂャヅダノ!?」
飛ばされたぽねっさとヒトデ氏は今、暗闇の中にいた。そう、デカパプリカの口の中という、一般的に考えない場所である。
ぽねっさは円錐形の底面が引っかかり、口内の途中で止まったからいいものの、体の小さいヒトデ氏は喉の近くまで落ちてしまった。二人はそこから必死に逃れようとしていたが上手くいかず、ぽねっさは現実逃避をし、出た台詞が先ほどのものであった。
暗闇は人を不安定にする。そうそれが、デカパプリカの口の中であっても。ぽねっさはそれをこの時学んだという。
数分の格闘の末、片手がヒトデ氏に届いたぽねっさは、体に反動をつけヒトデ氏を喉から引き上げた。だが引き上げた弾みで自らもひっくり返ってしまい。
トゲの頂点はデカパプリカの舌に刺さった。
『!!!!?????????!!』
それは声にならない慟哭であった、と後に周辺の住民は言う。
痛みを感じたせいであろう、デカパプリカは、ぽねっさとヒトデ氏を吐き出した。唾液とともに。
そして二人は再び強風に煽られ煽られ、濡れた身体に風は突き刺さるように冷たく、ガクガクブルブル、カチカチと歯を鳴らしながら、しばらく飛んだ後、ふわりと身を包む何かに出会ったのだった。
「アッタカァイ」
「ここが…天国か…」
少し厚めの布に包まれ、ここぞとばかりについでだと、唾液まみれの身体をふかせてもらう。そうしてようやく我に返るとお礼を言わなくてはと気が付いた。
「ありがとうございます!!たすかり…ました…?」
しかし周りを見ても誰もいない。
誰もいないどころか、地面すら遠かった。
ではこの布は?心優しい誰かが震える二人にかけてくれたとばかり思ってしまったこの布はーーー?
よくよくみるとそれは立派なうおのぼりだった。
「おっ…オッフゥ…」
二人は察した。これは、風で飛んできた二人が屋根の上のうおのぼりに絡まっただけだと。
どーしよ。唾液まみれにしちゃったよ、このうおのぼり…。とぽねっさは頭を抱えた。しかも風に飛ばされて絡まった際、トゲが刺さって穴まであいてしまった。どうしたものかとうんうん唸っていると、ツンドラ地帯を腹滑りするなにかがこちらに向かっていることに気が付いた。
魚のような形状。鱗に覆われた身体では赤銀に輝く背中が日の光を反射してキラキラしている。食らいついた獲物は逃がさないと主張するかのような立派な上顎。
どう見ても立派なカラフトマス。サーモンではなかろうか。
「はっ!あれは多分サーモン祭さんという紳士だと思われます!助かりますよヒトデさん!!」
「クリュクリュ~?ショウナノォ?」
「話せば話の分かる御仁ですから!さぁ参りましょう!」
ぽねっさはヒトデ氏の手を取り、うおのぼりから屋根へ。屋根から地上へと飛び降りようとした。
決して学習していなかったわけではない。ただもう二人は疲れていただけなのだ…。
「うっそおおおおおおおお」
「クリュクリュ~!?」
もうおわかりだろう。
二人は再び強風に吹き飛ばされ遠く遠く空高く見えなくなるまで風に煽られていった。
「あの白いものは…?」
ふと見上げた空に小さくなって飛んでいく物体を視界に捉えたサーモン祭氏が帰宅するまで10分をきった頃の出来事であった。
一方、ぽねっさのお手伝い妖精は今何をしているのか、といえば時間は遡る。
損害賠償の話も丸く収まり(?)、あたりをつけてルビー街へとやってきた妖精は、広いルビー街のどこへと向かえばいいのか迷いながら飛んでいた。一人で探すのには限界を感じた彼女は誰かに訊ねようとする。
そこに見知った店主が現れた。麦茶屋氏である。ちょうど店先に出てきたところだった。
『すみません、麦茶屋さん!うちの店主見ませんでしたか?』
「ん?ってええ!?ぽねっささんとこのお手伝い妖精さん…?なぜここに。あー、すまんなぁ、見てない。きてたことも知らなかったわ」
『いえいえ!すみません、私もどうしてこんなことになっているのかよくわからなくて』
二人で頭をぺこぺこさせながら会話する。店主の手掛かりは得られず、どこを探したものかと考えながら麦茶屋氏に別れの挨拶を告げている時、二人の頭上に影が落ちた。
時刻はもうすぐ昼。急に影がさすのはおかしいと視線を上に飛ばせば、そこには麦茶屋氏の店舗の屋根に座るパプリカマンがいた。
そのパプリカマンが、ゆっくりゆっくりと、腕を上げて、最後に人差し指で一方向を指差した。
『もしかして…うちの店主あっちに行ったって事でしょうか?』
「そうっぽいね」
パプリカマンも動くんだ…とお手伝い妖精はぱぷりんに続く新たなる知識を得た。ショックを受けている場合ではない。何度か頭を下げ、お手伝い妖精はパプリカマンの指差す方向へと羽ばたいた。
飛ぶこと数分。聞かなくてもわかる、これはあかんやつ、と一度お手伝い妖精は目を背けた。背けたが、そう言うわけにはいかない、と立ち直るまでわずか3秒。
そこには、ベロンと舌を出したデカパプリカがいた。よくよくみればその舌、穴があいている。
その穴の大きさにお手伝い妖精はよく見覚えがあった。見覚えがないものであればどんなによかったか。
『すみませーん!どなたかいらっしゃいませんかー!』
何はともあれ、謝罪も必要だし、可能なら手掛かりも得たい。お手伝い妖精はデカパプリカの下にある店舗の入り口でノックをしながら声をかけた。
「はーい、どちらさまですか?って、ぽねっささんとこの妖精さん?」
『あっ!佐藤さん』
佐藤さんとはぽねっさとも親しくしている店主である。よく見たら店舗には“こいくちしょうゆ”とも記載されていた。自分の名前を店名にする事が多いこの世界で、佐藤さんはマイノリティ商人だ。そんなことはさておき、お手伝い妖精は自分の店主のやらかしたことの尻拭いをせねばならない。
「お手伝い妖精さんがここにいるってことはやっぱりさっきのってぽねっささんだったんですねぇ」
お手伝い妖精が口を開く前に佐藤氏が笑顔で切り出した。ドキンと大きく鼓動が跳ねる。一体この気持ちは…?
『佐藤さんはもしかしてうちの店主を見たんですか?』
「それっぽいのが飛んでいくのは見ましたよ。確証はなかったんですが。あと青色の星の形をした飾りをつけてましたね」
すみませんそれ飾りじゃなくてヒトデマスターさんなんですと言えば、佐藤氏は珍しい組み合わせですねと小さく笑った。あちらに飛んでいきましたよと添えて指をさす。多分青街のほうだろう。
『あの、うちの店主があけたデカパプリカの舌の穴なんですけど、治療費っていくらくらいかかりますか?』
「えっ?治療費ですか」
『はい、お医者さんに診せるならうちの店主がしでかしたことですから、せめて費用くらいは負担させてもらいたいなって』
ふむ、と佐藤氏がデカパプリカをおもてをあげた。先ほどからずっとお手伝い妖精の鼓動はいつもよりも強くて早かった。これはもしかして、とお手伝い妖精が自らの挙動に推測をつけたとき、無造作に佐藤氏が言葉を紡いだ。
「治療費より、先にあれのほうをなんとかしてもらいたいですね」
指先から視線を伸ばせば、光り輝く、半透明なものがこいくちしょうゆ店の壁面を覆っていた。あれはいったい何なのだと、周りを観察する。お手伝い妖精の心臓は相変わらずうるさいくらいに飛び跳ねていた。
「デカパプリカの口から出てるから、多分ぽねっささんとヒトデさんを吐き出したときに出たんだと思うんですけど、あれのおかげで住民が怯えてしまって、お客さんこないんですよ」
なんということでしょう!!!!
お手伝い妖精の鼓動はマックスビートを刻む。なんということをしてくれたんだ店主!!!
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!!今すぐ片付けさせていただきますから!!!!』
高鳴る胸は嫌な予感を代弁していた。ちなみに涙目になりながらデカパプリカの唾液を片付けるのは30分かかった。
デカパプリカはそのうちなおるだろう、と特に費用請求はされなかった。「そもそもパプリカ看板系の治療できる人もいないだろうし、いたとしてもステイン博士だろうがどこにいるかわからない。舌を収納していれば見た目はいつものデカパプリカなので支障はない」と佐藤氏は語る。
お手伝い妖精は再び頭をさげて、点々と落ちている唾液を掃除しながら、自らの店主を探しにまた飛び始めた。
気が付けばルビー街を抜け、そこはブルー街、通称青街まできていた。そして、一件の店が目に入った。
ツンドラの上に建つその店舗は、店主が上からうおのぼりを下ろそうとしているところだった。遠目からでもうおのぼりはボロボロで、そして輝いていた。ねばっとしたもので。先ほどまでさんざん触って片付けたので間違いはないだろう。デカパプリカの唾液である。
言わなければわからないかもしれないが、調べたらデカパプリカの唾液なんて珍しいもの、すぐ足がついてしまうだろう。お手伝い妖精はキリキリしてきた胃のあたりをさすりながら、その店舗へと近寄っていった。
『あのー、すみません…。その、うおのぼりって、どうされたんでしょうか』
なるべく不自然にならないように話しかけるにはとも考えたのだが、上手い話し方も思い浮かばず率直に訪ねる。魚の姿をしたその店の主と思われる魚はほがらかに教えてくれた。
「いやぁ、帰ってきたらボロボロになっていたんですよね。この辺はツンドラで氷も転がってるから、最近の季節風にでもあおられて、氷かなにかがからまって破れたのかなって、ハハハ」
こんなボロを店の上に飾っているのも格好悪いから、そう言う店主の横顔がとても寂しげで、お手伝い妖精は耐えられなくなった。
『多分そのうおのぼりボロボロにしたの、うちの店主なんです…本当に申し訳ないんですけど、可能な限り元に戻るようお手伝いさせてもらいますのでっ』
「いやいや、そんな気を遣って貰わなくても大丈夫だよ。ほら、君も早く自分のお店に帰りなさい」
信じてもらえなかった。それはそうだろう。突拍子がなさすぎる。しかしお手伝い妖精は頑張った。頑張った末信じてもらえた。
「うちのことは、ほら、後回しでいいから、ぽねっささんのこと探しに行ってあげてください。確かあちらに飛んでいったから。いやぁ…まさかあの時見た白いのが商人仲間とは思いも寄らなかったよ。人生何があるのかかわらないね」
『こちらこそお気遣いありがとうございます!店主と合流したらこちらにまたきます!!うちの店主これでも漁師なのでうおのぼりはきっと作れると思いますから』
そう言って、お手伝い妖精は再び店主を探しに飛び立った。
まだ続くよ!
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