「店長ー、ちょっと店長、仕事してますかー?」
砂漠と海の街、バトル街。道沿いのよろず屋に女性の声が響き渡る。
「またこんな所で新聞を読んで!仕事をしてくださいよ、しーごーとー!」
「仕事?イヤだなぁ、ちゃんとしてるよ?先日の各街の売上レポートを見ながら次は何を仕入れるか決めると言う大事な仕事がだね…」
「そんな事言って昨日も一昨日もずーーっと鉄製品ばかり売ってるのはどこのどの店の店長ですか。少しはこのブラッディウム原石をどうにかする努力をして下さい!」
大げさな身振りで言い訳をする中年男性を遮り、女性がまくし立てる。
「そんなに怒ってばかりだと可愛い顔が台無しだよ?看板娘なんだからもっとニッコリと、スマイルで営業しないと♪」
「ならせめてこんな顔にならずに済む方法を考えてください。さぁ、誤魔化してないで仕事しますよ」
スマイルを促す店長を女性がじっと睨みつける。店長もこれはたまらないと新聞を閉じ立ち上がる。
「…わかった。僕の負けだ。仕事をしよう。ではさっそくだが助手君、君に聞きたいことがある」
店長が女性に問いかける。先ほどとは打って変わって真面目な顔つきだ。
「誰が助手ですか、誰が。で、なんですか?」
「ここにあるブラッディウム原石やインゴットの価値を決めるのは誰だと思う?」
「値札をつける店長でしょう?」
「残念、ハズレだ。仮に僕がこのブラッディウム原石に1kg10,000Gの値札を下げたらどうなるかわかるかい?」
「そんなの売れないに決まってるじゃないですか。何を…あ…」
当たり前と言わんばかりに返そうとした助手も何かに気が付く。
「そう、値段を決めただけじゃ価値は生まれない。その値段でその商品が買われた時に価値が生まれるのサ」
店長は続ける。
「では商品に価値が付く、つまりは売れるのはどういう時か。答えは簡単、その商品に使い道があるから買われる」
「原石やインゴットが加工されて新たな商品となって、それらがこの島の住人に買われる。住民に買われた時に本当の価値が決まるのだよ」
「住民に買われた価格から次の仕入れではここまでは出せる。と、最終的な価値から採算が出る価格が決まっていく」
「その流れが遡って行くことで、原料の需要と価格に繋がっていくのサ!」
店長は得意そうにそう言う。対する助手は原石を指さして店長に問いかける。
「で、じゃあこのブラッディウム原石の価値はどうなんですか?」
「いやあ、サッパリダメだね!困ったネ!一晩二晩経つにつれてグングン値が下がってて、正直頭を抱えてるとも!」
「それでも作業妖精に掘らせるのは止めないんですね…」
「掘るのは止めないし、必要なら値下げもするさ。まずは値段がどんなに下がろうとも多くの人の手に届けなくてはならない」
「多くの人に普及させる事で、その中の誰かに『あ、これをこうすれば売れるのか』という気付く人が出て来る」
「その気付きが模倣されて広まる事で商品の価値が再計算され、やがて原料の値段として還元される」
「ブラッディウム原石はまだ原料価格に還元される段階まで来てないのさ。だからその日が来るまで掘ることを止めてはいけないのサ」
店長はウンウン頷いているが、助手の方は呆れ顔である。
「来るといいですね。これが全部売れる日が…」
「来るさ。それがいつになるかはわからないけど。僕たちが今してる事はその日が早く来る様にするためなんだから」
「この島の住民にどうやったら高く商品が売れるのか、住民がどんなものに興味を引かれるのかを調べ上げて、今よりもっと多くの人の手から商品が売れるようにしたいのさ」
店長、キメ顔で助手にそう告げるも助手の肩は震えており…
「なら、この鉄製品をさっさと売って!次はもっと単価の高い商品を置いてください!!」
――この店が売上ランキングに乗る日まだまだ遠い。
***
あとがき?
登場人物紹介、名前はまだない。
- 店長
おじいさんに片足突っ込んだおじさん。MUTOYS島に来る前は学者をしていたとかどうとか。何かと胡散臭く、飽きっぽい。助手に会った頃は調理師だったが、今では立派な鉱夫。職種や業種に執着がなく、今はMUTOYS島の住民達の社会について分析すると言って住民にものを売るよろず屋経営。黒字ではあるが売上はそこまで高くない。
- 助手
ルビーの山奥で遭難しかけた所を当時工房を営んでいた店長に助けられる。以来、店頭で看板娘として雇われているが、工房を辞めて鉱夫だのよろず屋だの営む店長には少々不満がある。いつか調理師に戻るのではないかと思って経営に付き合っているが、その日は遠い。
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